中村 結衣VIEW PROFILE →
壁にも貼れる太陽電池,,日本が国産技術ペロブスカイトに託すエネルギーの未来
薄くて軽く、曲がる太陽電池「ペロブスカイト」。日本で生まれたこの次世代技術に、国は原発二十基分もの導入目標を掲げ、巨額の支援を注ぐ。資源に乏しい島国が描くエネルギー自立の青写真と、その実現を阻む壁を読み解く。
脱炭素社会の実現に向けて、日本が大きな期待を寄せる次世代技術がある。その名はペロブスカイト太陽電池である。薄く、軽く、しかも折り曲げられるという特徴を持つこの太陽電池は、従来の重くて硬いシリコン製パネルの常識を根本から覆す可能性を秘めており、国を挙げた開発競争の主役となりつつある。
この技術の大きな強みは、その設置の自由度にある。柔軟で軽量なため、これまで太陽光パネルを置くのが難しかった場所にも設置できる。ビルの壁面や窓、耐荷重の小さい屋根、さらには曲面など、活用の幅は極めて広い。国土が狭く平地の限られる日本にとって、これは決定的な利点となりうる。
さらに見逃せないのが、原料の観点である。ペロブスカイト電池の製造には、ヨウ素という物質が欠かせない。そして日本は、世界有数のヨウ素の産出国なのだ。多くの重要資源を輸入に頼る日本にとって、主要な原料を国内で調達できるこの技術は、エネルギーの自立という観点からも大きな意味を持つ。
曲がる、貼れる、軽い

注目すべきは、この技術がもともと日本の研究者によって生み出されたという事実である。基礎研究の段階では世界をリードしていたにもかかわらず、実用化や量産化の局面で他国に先行される、という苦い経験を日本は繰り返してきた。今回こそ発明を産業の果実へと結びつけたい、という強い思いがそこにはある。
その本気度は、国の政策に明確に表れている。政府は今後の目標として、将来的に原子力発電所およそ二十基分に相当する規模のペロブスカイト太陽電池の供給体制を国内に構築するという、極めて野心的な数字を掲げた。これは単なる一技術の支援を超えた、国家的なエネルギー戦略の一環である。
国を挙げた巨額の支援
この目標を実現するため、巨額の公的資金が動員されている。ある大手化学メーカーは、政府の脱炭素関連の支援制度のもとで手厚い補助を受け、専用の量産ラインへの大規模な投資に踏み切った。数年のうちに生産を本格化させ、段階的に生産能力を拡大していく計画だという。
支援の対象は一社にとどまらない。大手電機メーカーや事務機器メーカーなど、複数の企業がそれぞれ異なる強みを生かして開発を進めている。建材と一体化したガラス型の製品を目指す企業もあれば、薄く軽いフィルム型に特化する企業もあり、多様なアプローチが並行して追求されている。
需要を生み出すための後押しも始まっている。エネルギーを多く消費する企業や組織に対し、屋根への太陽光発電の導入目標を定めるよう求める動きが進んでおり、その受け皿として、安価で耐久性のあるペロブスカイト電池が普及することが期待されているのである。
立ちはだかる現実の壁
もっとも、輝かしい未来像だけを語るのは誠実ではない。最大の課題は耐久性である。ペロブスカイトは水分や熱に弱い傾向があり、屋外で長期間、シリコン製パネル並みの寿命を保てるかどうかが、実用化の成否を分ける決定的な鍵となる。この点の克服が、いまなお開発の焦点となっている。
競争環境も甘くはない。基礎技術こそ日本発だが、この有望市場を狙っているのは日本だけではない。とりわけ、太陽光パネルの世界市場をすでに席巻している中国が、ペロブスカイトの分野でも猛烈な勢いで開発と量産の準備を進めており、再び先を越される懸念は決して小さくない。
それでも、この技術に賭ける意義は大きい。資源に乏しい島国が、自国で生まれた発明と自国で採れる原料を武器に、エネルギーの未来を自らの手で切り拓こうとしているのだ。壁にも貼れる小さな太陽電池が、日本の脱炭素とエネルギー自立の切り札となれるのか。その答えは、これからの数年に懸かっている。






