中村 結衣VIEW PROFILE →
深海6000メートルからの資源革命:南鳥島レアアース試掘に成功
2026年、日本は南鳥島沖の排他的経済水域で深海約6000メートルからレアアース泥の引き揚げに成功した。中国依存の低減につながる経済安全保障の切り札として期待が高まっている。
宇宙開発や核融合と並び、日本の科学技術が挑む最前線のひとつが、はるか深海に眠る資源の開発です。そして2026年、その分野で歴史的な一歩が記されることになりました。東京都に属する南鳥島沖の排他的経済水域、いわゆるEEZにおいて、レアアースを含む泥の採掘試験が本格的に動き出したのです。資源の乏しい国とされてきた日本にとって、これは大きな転換点となる可能性を秘めています。
レアアースは電気自動車のモーターや先端エレクトロニクスに欠かせない戦略物資でありながら、これまでその供給を特定の国に大きく依存してきました。今回の試掘の成功は、そうした構図を根本から変えうる出来事として、産業界からも政府からも極めて大きな注目を集めています。経済安全保障の地図そのものを塗り替える可能性を秘めた挑戦だといえるでしょう。
深海6000メートルからの引き揚げ
レアアース泥の採掘試験が始まったのは2026年1月のことでした。舞台となったのは小笠原諸島に属する南鳥島周辺の日本のEEZで、海洋研究の最前線を担う先端技術と特殊な船舶が総動員される大規模なプロジェクトとして、周到な計画のもとに進められてきました。深海という過酷な環境での作業は、まさに国家的な挑戦そのものだったといえます。
そして翌2月、内閣府と海洋研究開発機構、いわゆるJAMSTECは、この海域でのレアアース試掘に成功したことを正式に発表しました。深部探査船「ちきゅう」を活用し、水深およそ6000メートルという極限の深海の海底から、レアアースを豊富に含む泥の引き揚げに世界で初めて成功したのです。関係者の長年の努力が結実した瞬間でした。
水深6000メートルという環境は、途方もない水圧と完全な暗闇が支配する、人類にとって未知に近い世界です。そこから泥を安定して回収する技術は極めて高度なものであり、決して一朝一夕に確立できるものではありません。今回の成功は、日本が長年にわたり培ってきた海洋科学技術の分厚い蓄積があってこそ実現した、まさに総合力の勝利といえるでしょう。
泥に眠る貴重な元素たち

南鳥島沖の海底から引き揚げられた泥からは、6種類以上ものレアアース元素が高い濃度で確認されています。具体的にはジスプロシウムやネオジム、サマリウム、イットリウム、ガドリニウムといった元素が含まれており、いずれも現代のハイテク産業を根底から支える極めて重要な素材ばかりで、その戦略的価値は計り知れません。
これらの元素の用途は驚くほど幅広く、私たちの日常生活の隅々にまで深く及んでいます。電気自動車のモーターやLED照明はもちろんのこと、精密な医療機器や、原子炉の制御棒といった高度な安全性が求められる分野に至るまで、レアアースはもはや欠かすことのできない縁の下の力持ちとなっているのです。
つまり、南鳥島沖の海底に広がる泥は、単なる泥ではなく、未来の産業全体を動かす宝の山ともいえる存在です。この貴重な資源を自国の管轄する海域で確保できることの意義は、目先の経済的利益をはるかに超えた、国家戦略上の重みを持っていると多くの専門家が口をそろえて指摘しています。
商業化への課題と展望
今回の試掘は、内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム、いわゆるSIPの一環として実施されたものです。今後の計画では、2027年2月にさらに大規模な実証試験を行い、一日あたり350トンものレアアース泥を採掘することを目指すとされており、いよいよ実用化に向けた段階へと歩みを進めようとしています。
もっとも、実用化に向けた道のりは決して平坦なものではありません。深海からの採掘には膨大なコストがかかるため、事業として成立させるための採算性をいかに確保するかが最大の課題となります。技術的な成功を、長期的に持続可能なビジネスへと結びつけられるかどうかが、これからの正念場となるでしょう。
また、まだ多くが未解明である深海の生態系への影響を最小限に抑える、環境への細やかな配慮も欠かすことはできません。貴重な資源を得る一方で、かけがえのない深海環境を守るという重い責任も、日本は同時に担っていかなければならず、そのバランスをとる難しい舵取りが強く求められています。
それでもなお、いわゆる脱・中国依存という経済安全保障上の観点から、このプロジェクトに寄せられる期待には計り知れないものがあります。宇宙、核融合、そして深海と、あらゆる領域でフロンティアに果敢に挑み続ける日本の科学技術。その飽くなき挑戦の行方は、これからも世界中から熱い注目を集め続けることになるでしょう。






