中村 結衣VIEW PROFILE →
8月28日の深い部分月食:月面の96%が赤銅色に染まる天体ショー、しかし日本からは見えない理由
2026年8月28日、月面の約96%が地球の本影に飲み込まれる「深い部分月食」が起こります。ほぼ皆既に迫るこの現象は世界の半分で観測できますが、日本では月が地平線の下にあるため見られません。その科学的なしくみと、日本からオンラインで楽しむ方法を解説します。
2026年8月28日、夜空では地球規模の壮大な天体ショーが繰り広げられます。この日は満月にあたり、月がほぼ完全に地球の影へと沈み込む「深い部分月食」が発生するのです。世界中の天文ファンが固唾をのんで見守るこの現象について、その科学的な背景と観測のポイントを詳しく読み解いていきましょう。
皆既に迫る「深い部分月食」とは
今回の月食は、単なる部分月食という言葉から想像されるような、月が少し欠ける程度の控えめな現象ではありません。食が最大となる瞬間には、月面の実に約96パーセントもの領域が、地球が落とす最も濃い影である「本影」の中にすっぽりと入り込むと予測されています。
専門的な数値で示すと、月がどれだけ本影に入るかを表す「食分」は0.935という非常に高い値に達します。これはほとんど皆既月食と見分けがつかないほどの深い食であり、影に入った月の大部分が私たちの目に妖しく赤銅色に染まって見える、まさに劇的な光景が期待されているのです。

なぜ月は赤銅色に染まるのか
月食のとき、月が地球の影に完全に隠れて真っ暗になってしまわないのには、地球の大気が関わる美しい理由が存在します。太陽の光は地球の縁をかすめる際に、大気というレンズを通ってわずかに屈折し、影の中にいる月面へと回り込んで届けられているのです。
その際、青い光は大気によって散乱されて失われやすい一方、波長の長い赤い光は散乱されにくく、遠くまで届いて月を照らします。これは夕焼けが赤く見えるのと全く同じしくみであり、いわば地球中のすべての夕日と朝日の光が、影の中の月を赤く灯していると表現することもできるでしょう。
残念、日本では見ることができない
これほど魅力的な天体現象でありながら、日本の空を見上げても、私たちはこの月食を目にすることが全くできません。国立天文台も明確に指摘している通り、今回の食は日本時間では昼間に進行してしまうため、肝心の月が地平線のはるか下に沈んでいるのです。
具体的な時間帯を見ると、月食は日本時間の午前10時23分ごろから始まり、食の最大は午後1時13分ごろ、そして終了は午後4時すぎと計算されています。この一点こそが、今回の月食を語るうえで最も重要なポイントとなります。北は北海道から南は沖縄まで、日本のどの地域からも観測は叶いません。
世界の半分が見上げる空
日本が昼を迎えている一方で、地球の反対側では絶好の観測条件が整い、世界のおよそ半分の地域で人々がこの赤い月を見上げることになります。具体的には、アフリカ大陸やヨーロッパ、そして南北アメリカの大部分や東太平洋の広い範囲が、今回の観測に恵まれた地域となります。
とりわけ南北アメリカ大陸では、月が最も深く影に入り込んだ状態を好条件で楽しめると期待されています。同じ夜空の下にありながら、地球の自転と位置関係によって観測の可否がくっきりと分かれるところに、天文現象ならではの地球規模のダイナミズムを感じることができます。
オンラインで楽しむという選択肢
では、日本の天文ファンはこの世紀の光景をただ諦めるしかないのかというと、決してそうではありません。現代ならではの方法として、月食が見える地域の海外の天文台や観測施設が、この現象の様子をインターネットでライブ配信する計画を進めているのです。
高性能な望遠鏡がとらえた鮮明な赤い月の映像を、私たちは自宅の画面を通してリアルタイムで味わうことができます。直接自分の目で見上げる感動には及ばないかもしれませんが、地球の裏側で起きている神秘を同じ時間に共有できるというのは、非常に贅沢な体験だと言えるでしょう。
次の機会に向けて空を見上げる
今回は観測が叶わないとはいえ、月食は決して珍しすぎる現象ではなく、条件さえ整えば数年に一度は日本の空でも楽しむことができます。今回の8月28日の出来事は、宇宙のスケールと地球という天体の位置関係を改めて意識させてくれる、またとない知的な機会となるはずです。
普段は当たり前のように夜空に浮かぶ満月も、こうした食のメカニズムを知ることで、まったく違った奥行きを持って見えてくるものです。次に日本で赤い月を見上げられる日を心待ちにしながら、まずはこの日の地球規模の天体ショーに、静かに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。






